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五章 「校外学習と」

Author: 桃口 優
last update Last Updated: 2025-08-27 14:27:01

 学校では、クラスのまとめ役の資料作りが終わり、もうすぐ校外学習の日となる。

 私は彼と始めたことを最後までしっかりやり遂げたいと気合いが入っていた。

 川田くんにも「最近やる気がめっちや入っているじゃん」とちゃかされるぐらいだった。

 最初、川田くんはサッカー部にも入っていて明るくて爽やかでタイプが違うかなと思っていた。

 でも一緒に作業をしていると、思ったより普通にしゃべれている自分がいた。

 それに川田くんは、小さな変化に気づいてくれて気が利くところもある。

 タイプが違うと決めつけ、最初から関わらないのはよくないなとわかった。

 校外学習の日、私は資料を片手にクラスの人たちに説明をしたり、点呼をとったりした。

 全てのクラスメートが私の説明を真剣に聞いてくれていたわけではないけど、中には立ち止まってじっくり見ている人もいた。

 興味が持てない人もいるのも当たり前のことと思っているから、私としてはとても満足のいく出来となったのだった。

「終わったー」

「お疲れ」

 私と川田くんはクラスのまとめ役の仕事も終わり、二人で少し休んでいた。

「茉白の説明、すごい熱入ってたよね」

「やめてよ、恥ずかしい」

 ちゃかしながらも、川田くんがほめてくれていることも私にはわかっていた。

 川田くんは実はシャイなのかもしれないと今更気づいた。

 人と接していても、その人について知らないことは思ったよりもある。

 私は彼のことをどれぐらい知っているだろう。

「シオンもきっと喜んてくれているよ」

 彼のことを考えていた時に川田くんの口から、彼の名前が出てきて胸がドキッと大きく跳ねた。

「そうかな?」

 私の顔がピンク色に変わっていないか心配になった。

 恋している顔を他人に見られるのは恥ずかしい。

「大丈夫! 茉白は、資料作りも説明も完璧だったから」

「それは、川田くんも一緒にしてくれたからだよ」

 私はほめられまくってさすがに照れてきたので笑った。 

 川田くんも一緒に笑ってくれた。

 その後少し沈黙が訪れ、川田くんが「茉白」と私の名をゆっくりと呼んだ。

 川田くんの整った顔が少し赤く染まっているように見える。

「シオンのことをまだ思っていてもいい。茉白、俺と付き合ってくれないか? 俺が茉白をもっと笑顔にしたい」

 川田くんはそう言いながら自分の短い黒髪を触った。

 突然の告白になんて反応していいかわからなかった。

 それに川田くんは、私が彼のことを好きなことをわかっていた。

 彼の話は何度かしたけど、直接好きとかは言っていないのにどうして確信がもてたのだろう。

 私ってそんなにわかりやすいのだろうか。

 いや、今はそんなことを考えている時ではない。

「えーっと、どうして?」

 なんとか言葉にできたのは、それぐらいの言葉だった。

 告白してくれたのに、そんな言葉しか言えないのは申し訳ない。

 川田くんは正直女子からモテる。たくさんいる女子の中で、どうして私なのだろうかというのは気にはなる。

 川田くんは視線を下に向けた。

「どうしてって⋯⋯。茉白がシオンのことでへこんだり寂しそうにしている姿をずっと見てきたから。だんだんほっておけないと思えてきて、今は俺が茉白を元気にしてあげたいと思った。忘れる必要はないけど、一緒に前に進まないか? そのために俺を利用してくれていいから」

 私は告白理由に心から驚いた。

 今だけでなく、私のことをすごく思ってくれているがわかったから。

 心が痛くなってきた。

「川田くん、そんなに思ってくれているのにごめん。私はやっぱりまだ佐々木くんを好きでいたいの。それが実を結ぶかはわからないよ。それでも彼が好きだから。それに気持ちを切り替えられていないのに、川田くんと付き合うのは川田くんに失礼だし、川田くんを利用することは私にはできないよ」

 川田くんの言葉は、心にぐっとくるものは確かにあった。

 それでも私はこの告白を受けるわけにはいかなかったから。

「フラれたかー」と川田くんはくしゃっと笑った。

 こうやって場を重くしないのも川田くんの魅力だろう。 

 私の申し訳なさも少しは軽くなる。

 ふった私がそれを今伝えても、逆効果になりそうなので心のうちにそっとしまっておいた。

 私は家に一人で向かっている時に、彼のことを考えていた。

 私は川田くんと彼についての話したことで、彼に会いたいという気持ちがまたぐっと膨れ上がってきていたから。

 彼は今どこで、何をしているのだろう。

 クラスのまとめ役できたよって直接話したい。

 彼ならなんて言ってくれるだろう。

 いつもメッセージのやりとりはしているけど、彼の今の表情を見たい。 

 テレビ電話をかけてみようか。

 今ならできる気がする。

 手鏡を出して、前髪を整えた。

 それから、私はスマホの通話ボタンを押した。

 普段はこんなに大胆じゃないけど、今日は大胆になれた。

 今日の私は、なんだな普段できないこともできるかもしれない。

 呼び出し音が鳴って、胸がドキドキとしてきた。

 胸の音はどんどん大きくなっていくけど、もうかけてしまったのだからどうすることもできない。

 「思いよ届いて」と祈った。

 でも、何度呼び出し音がなっても、彼が通話に出ることはなかった。

 もちろん、今何か用事があったのかもしれないけど、私と彼は運命的に結ばれていないのではないかと考えずにはいられなかった。

 私は電話を切った。

 彼が後でテレビ電話のことを聞いてきたら、特に大したことではなかったから大丈夫と言おう。

 私が再び彼に会えるのは、いつのことになるのだろうか。

 いや、本当に会えるだろうか。

 前向きな気持ちになんだかなれなかった。

 空は今日も同じ景色だった。

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